平成19年度全国優良畜産経営管理技術発表会 経営部門 【愛媛県】
開拓者精神を受け継ぐ
二代目の酪農経営者

萱原 誠司


酪農

↑萱原牧場のオールスタッフ
1.地域の概況
 
愛媛県西予市(旧野村町)は、県の西南内陸部に位置し、東は高知県梼原町に接している。県都松山市へは80kmの距離にある四方山に囲まれた急峻な山岳等の制約を受け、厳しい環境条件にある。農業粗生産額は近年129億円で推移している。うち、畜産が54%の70億円を占める畜産を主体とした農業形態である。

 萱原誠司氏の住む西予市野村町大野ヶ原は、標高1,000〜1,350bのカルスト台地に位置し、平均気温は9〜10℃(最高気温26.3℃最低気温マイナス9.4℃で高冷地特有の気温変化)、降水量は2,600_で、うち50%は7・8・9月の3か月に集中する。一方、冬季の降雪は11〜3月の間20〜50pあり、多いときには2.5mにもなる高原開拓地で、1950(s25)年の一次入植から1955(s30)年の第六次まで毎年入植し、最も多いときは60戸に上った。
 農業生産は入植後各種品目の栽培を試みるが、高冷地ゆえの気象条件から端境期に出荷できる大根を導入し、「大野ヶ原大根」として高冷地野菜の地位を築き経営安定に貢献した。

 しかし、生鮮野菜は市場価格に影響されることや、台風の被害を受けやすいこと等から、栽培が比較的容易な草地として一層の経営安定を図るため1959(s34)年、和牛飼育農家が中心になりホルスタイン育成牛40頭の導入による酪農経営に転換した。

 1980(s55)年国営四国カルスト草地開発事業により、後継牛の放牧育成が始まり大野ヶ原酪農の発展に大きく貢献した。現在では、西予市の27%の生乳を生産する酪農地域に発展するとともに、現在14戸が愛媛県下で唯一の草地を基盤にした酪農経営を展開している地域である。


2.経営の概況

(1)労働力の構成

区分

経営主との続柄

年齢

農業従事日数(日)

部門または作業担当

備考

 

うち畜産部門

 

本人

49

  320

  320

経営・搾乳・飼料作

 

 

  妻

 50

  280

  280

経営・搾乳・掃除

 

家族

  父

 77

  300

  300

育成・飼養管理

 

 

  母

 79

  270

  270

育成

 

常雇

 

 

 

 

 

 

臨時雇

のべ人日                人

 

 

  
(2)過去5年間の生産活動の推移

 

平成14年

平成15年

平成16年

平成17年

平成18年

畜産部門労働力員数(人)

    4

     4

    4

    4

    4

飼養頭羽数(頭・羽)

    37

40

44

49

       44

販売・出荷量等

(t・kg・頭)

   307,772

     286,296

    330,500

    354,038

    339,540

畜産部門の総売上高(円)

33,038,181

33,602,848

37,380,955

36,949,752

35,096,115

 

主産物の売上高(円)

  29,994,168

29,950,414

33,694,211

33,546,872

31,375,340

3.経営・活動の推移

年次 作目構成 飼養頭数 飼料作付面積 経営・活動の内容
昭43 酪農大根 (経産牛)11頭 草地 6.0ha 農業改良普及員の指導で複式簿記開始
45   (経産牛)15頭 草地 8.0ha 5haの草地に牛舎建設・放牧酪農開始
46       四国カルスト地区草地開発事業始まる
49 酪農専業 (経産牛)25頭   大根の生産過剰から撤退し酪農専業に
50       大野ヶ原地区農業公社牧場に参加し40頭牛舎及び管理用機械一式
53       スチールサイロ1基建設
54   (経産牛)35頭   誠司氏就農
55   (経産牛)40頭 草地 11.0ha コンクリートサイロ及びフォーレージブロア導入
56       乳牛改良のため牛群検定開始
59       大野ヶ原地区で始めて通年サイレージ化
平 2       父から経営を受け継ぐ
パソコンによる経営管理を開始
3       飼槽にゴムマットを敷設し清掃作業の省力化
4       30HPトラクター導入・パイプラインミルカー更新
6       50HPトラクター導入・
7       ロールベーラー・ラッピングマシンー式導入
8       農機具庫建設・バックフォー導入
9       80HPトラクター・ディスクモアー導入
10   (経産牛)40頭 草地 13.0ha バキームカー導入・パソコン更新
草地2ha(管理受託)
11   (経産牛)40頭   4dダンプ導入
13   (経産牛)40頭   バルククーラー更新
14   (経産牛)37頭     
15   (経産牛)40頭     
16   (経産牛)44頭   堆肥舎建設・98hpトラクタ−導入・パソコン更新
17   (経産牛)49頭   ショベルローダー・ユンボ・軽トラック更新、飼育用スタンチョン更新
18   (経産牛)44頭   牛舎屋根・倉庫・乾乳用設備整備
19   (経産牛)44頭    

4.経営・生産活動の内容
1 経営の特徴は、設備投資は自己資金の充当を理念としてきた
萱原氏の経営方式は、父の経営理念である「自己資金蓄積→規模拡大→内部充実→自己資金蓄積→規模拡大」を継承し堅実な経営で今日の経営規模を実現した。このため規模拡大には時間を要したが負債が無いことが経営の大きな特徴である。

これまで自己資金による主な投資は、@飼育用スタンチョン、飼槽のゴムマット化 Aコンクリート地下サイロ3基 Bパイプライン・ミルカー、バルククーラー等搾乳設備の更新 C農機具格納庫・堆肥舎、倉庫、スチールサイロ、乾乳施設の建設 Dトラクター20、50、70、80、98ps E4dダンプ、軽四トラック、ショベル・ローダー、ユンボ、バキュームカー等運搬用車 Fディスクモアー、ロールベーラー・ラッピングマシン等の牧草収穫機の導入などである。

2 高品質牧草の生産と収穫調製作業の省力化に努めている
ケンタッキー・ペレニアルライグラス・チモシー・イタリアン等からなる混播牧草の生産から、高品質安定生産をめざして チモシー単播にした。また、コンクリートサイロの詰め込み作業は女性の労力に依存を改善するため作業体系を見直し、刈取り・反転・集草・梱包の4作業を1人、運搬作業を3人、ラッピング・貯蔵作業が1人で出来る省力機械化体系の導入により、省力・低コスト化したロールベールサイレージにより、高品質粗飼料による通年給与体系を実現している。

また、畜舎構造が自然流下式でありふん尿混合処理である。このため、傾斜地草地はポンプタンカーにより還元が容易で、購入肥料の代替としてコストの低減に大いに貢献している。
チモシーの栽培面積は管理受託地を含め13haとなった。2回刈り取りで390d(3d/10a)生産し1頭当り8,500kgの給与となり生産コストの低減に貢献している。

3 パソコン導入による経営管理の高度化に努めている
萱原家の経営管理は、昭和43年に農業改良普及員の指導で始めた複式簿記であった。
平成2年の経営移譲を契機に、他の13戸に先駆けて、振替伝票記入・総勘定元帳転記による試算表作成からパソコンによる複式簿記に転換した。入力が終わると即時に試算表や原価計算書ができ経営の把握が可能となったし、月次の結果に基づく改善に役立っている。

最近の経営成果(所得率)は、平成14年次32%、15年度30%、16年次34%、17年次40%、生産調整のあった18年次でも22%で、地域の酪農家のモデルとなっている。
また、平成14年次を100とした牛乳生産量は、15年次 93、16年次 107、17年次 115、18年次 110と順調な成果となっている。総売上高は、15年次 102、16年次 113、17年次 112、18年次 106である。

他の13戸の酪農家を始め、大根や花き経営農家にパソコンの優位性を啓蒙し、今では地域の全ての農業者がパソコンを活用し、経営管理やインタ−ネットによる情報の収集や交換をしている。

4 公共育成牧場の活用により優良基礎牛の確保に努めている
大野ヶ原地区には、昭和55年に完成した乳牛の育成牧場「大野ヶ原牧場」があり、愛媛県酪農業協同組合連合会が運営・管理しており、全ての後継牛は大野ヶ原牧場に預託し足腰の強い後継牛の確保に努めている。 平成19年1月現在の預託中の育成牛は29頭である。
この牧場ができるまでは旧大野ヶ原開拓農業協同組合の放牧場を活用して後継牛を確保していた

5.地域農業や地域社会との協調・融和のために取り組んでいる活動内容
1 地域の農業・畜産と共存・共栄のための活動(組合部会活動、生産・販売組織等の設立等)
昭和54年4月新規就農と同時に大野ヶ原酪農後継者部会に所属し、酪農技術の修得と仲間作りに積極的に活動した。昭和56年4月から60年3月までの間、後継者部会長を務め会の発展に貢献した。平成14年4月から16年3月まで野村町農業協同組合酪農経営者協議会大野ヶ原支部長、平成16年4月から大野ヶ原農林業振興協議会長を務めるなど各種組織の交流や農業経営の発展に非常に貢献している。また、妻 百合子氏はJA東宇和女性部大野ヶ原支部長として農協酪農組織における女性活動の推進に貢献している。

父「萱原義美」氏も、経営者協議会大野ヶ原支部長や、大野ヶ原開拓農業協同組合長、野村町農業委員等の要職を歴任し、大野ヶ原地域や野村町発展に大きく貢献したことが評価され、平成12年11月 桂宮宣仁親王殿下より農事功労者として「緑白綬 有功章」を受章した。

2 地産地消への取り組み(産直所での加工・販売活動等)
萱原誠司氏や生産者組織会員が中心になり農協や生産者団体に対し、「四国カルスト高原で生産された牛乳」として「高原牛乳」というブランド名で差別化を提案。県内のデパ−トや大型量販店を中心に販売するとともに県外の各種イベントに出品し、大野ヶ原牛乳の宣伝と消費拡大に貢献した。

夏季は地域の特性から観光客の訪問が多いため、自宅を改造して簡単な「喫茶」を季節限定で開業している。地の利が悪いため客は余り多くないが、訪問者には「コーヒー」「アイスクリーム」「ダイコン」等を提供するとともに家族総出で消費者(地区外者)との交流に努めている。

3 地域活性化のための活動(他地域との交流会や地域イベントの開催等)
萱原誠司氏は、農業振興協議会長として地区住民の先頭に立ち、例年8月の七夕前後に開催される「高原祭」には、各種イベントを開催し観光客と交流する等地域の活性化に務めている。

また、大野ヶ原には海難除けの神として信仰されている「竜王神社」があり、春と秋の縁日には地区住民の先頭に立って加工品や大根の販売を通して交流を深めている。
「竜王大祭」は天候に恵まれれば5,000人もの人々が詣でる。
 
6.今後の目指す方向性と課題

1 自給飼料の安定確保のため、機械化作業体系により適期作業の励行と多回刈取による単位当りの収量の向上と、良質サイレ−ジの生産に務めるとともに飼料給与をマニュアル化し、健全な飼料給与体系を確立する。

2 畜舎環境の整備
自然流下式牛舎から搬出する牛ふん尿は全量草地還元を基本に、固液分離機により固形物は堆肥化・液肥はばっき処理し全量草地還元を基本とする。施用にあたっては土・日には散布しない等、臭気の飛散を防止等、環境保全につとめる。

3 これらの上に、基本技術の励行による一層の飼養管理の徹底に努め、経産牛1頭あたり1万`を目標に「牛」に無理をかけない乳量水準を維持し、疾病や繁殖障害等を未然に防止するとともに一層の乳質の向上に取り組む。

4 後継者の就農を目標に育成・確保のため、ゆとりある酪農経営をめざして、夫婦2人で所得800万円、2000時間の労働を目標として、経営改善に取り組む。

5 四国カルスト高原に来訪する観光客(消費者)に対して、牛乳を原料とした新たな手作り乳製品の開発し提供するとともに、家畜とのふれあいの場づくりに積極的に取組んでいく。

7.事例の特徴や活動を示す写真

↑萱原牧場の全景

↑成牛舎の全景



↑萱原牧場がある四国カルスト大野ヶ原(寺山地区)

↑濃厚飼料給与



↑牧草の梱包作業

↑ロールベールサイレージの貯蔵