「家族で行なう地域と一体化したSPF養豚経営」

冨永 治、悦子


養豚
↑冨永夫妻
1.地域の概況
 内子町は、愛媛県の県都松山市の南南西約40kmの地点にあり、地図の上では愛媛県のほぼ中央付近に位置し、町の中央部を一級河川・肱川の支流である小田川が流れている風光明媚な土地である。平坦地が少なく丘陵地と山地が広がっており、大半が山林となっている。また、平成12年7月には、四国縦貫自動車道の伊予〜大洲間が開通し、松山から車で約30分と近くなった。また、内子五十崎I.C.ができたことにより、更なる産業と観光の発展が期待されている。
面積は299.50km2で、その広がりは東西30.0km、南北27.0kmになる。平成17年1月1日に、旧内子町、旧五十崎町、旧小田町の3町が合併し新内子町が誕生した。
同町は、江戸後期から明治時代にかけて和紙と木蝋で栄え、製蝋用具が重要有形民俗文化財に指定されたり、大正時代の歌舞伎劇場「内子座」が修理復元されるなど、当時の面影を残す白壁の町並みは、国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されており、歴史的文化活動の拠点として名高い。
農業については、県内最大の産地である葉タバコをはじめ、ぶどう・柿・梨などの落葉果樹の栽培が盛んに行なわれており、特にシーズンになると観光(もぎとり)農園が多く見られる。また、平成8年にオープンした「内子フレッシュパーク・からり」は、地元農産物直売所、レストラン、加工実習室、情報・研修センター等を兼ね備えた道の駅で、連日賑わいを見せており、人々の交流スポットになっている。
愛媛県下の「道の駅」の中でも非常に集客数が多く、平成16年度には年間売上が6億円を超えている。  町のデータファイルでは、世帯数は2006年で7,278世帯となっており、前年とほぼ同等であるが、人口は9,651人となっており、年々若干減少している。産業別就業者数は、第一次産業が21.5%であるが、年々減少している。
畜産農家戸数は乳用牛15戸、肉用牛5戸、養豚5戸、採卵鶏1戸、ブロイラー1戸となっている。
当経営体は、内子町の市街地から国道379号線を清流・小田川沿いに東へ10kmほど走った、ノーベル文学賞作家・大江健三郎氏の出身地として有名な大瀬地区の北部にあたる程内地区に位置する。周囲は山林に囲まれており、標高400m前後の山々が連なる。  

2.経営の概況

(1)労働力の構成

区分

経営主との続柄

年齢

農業従事日数(日)

部門または作業担当

備考

 

うち畜産部門

家族

本人

52

350

330

全般

 

  妻

46

350

330

全般

 

76

100

50

堆肥化処理

 

  
(2)過去5年間の生産活動の推移

  
平成13年
平成14年
平成15年
平成16年
平成17年
畜産部門労働力員数(人)  3 3  3  3  3 
飼養頭羽数(頭・羽)  73.6  70.2  67.3  65.0  65.8
販売・出荷量等(t・kg・頭)  1,531  1,401  1,575 1,606   1,594
畜産部門の売上高(円)  51,671,375  47,261,978  44,807,988  51,306,049  53,352,326
 うち主産物の売上高(円)  50,892,884  46,583,320  44,222,735  50,668,495 52,553,561 
3.経営・活動の推移
年次 作目構成 飼養頭数
(母豚数)
経営・活動の内容
S.54年 たばこ+稲作 両親と共にたばこと稲作の複合経営を実施していた。当時、本人は25歳で既に後継者として就農しており、豚舎の敷地造成が始まる。
55年 SPF養豚にいち早く注目した地域の農家で程内養豚団地が形成される。冨永氏は2,792万円を借入れ、山口氏との共同経営の豚舎の建設が開始される。
56年 養豚+たばこ+稲作 150(共同) SPF豚の育成豚を150頭導入し、山冨団地(山口秀雄、冨永治の共同)として養豚経営を開始した。
59年 70 結婚と同時に、山冨団地としての共同施設を一部残し、経営を分割した。
63年 養豚+稲作+果樹+畑作 70 本人は養豚に従事し、両親が果樹作(ゆず・キウイフルーツ)や畑作(きゅうり)を始める。
H.2年 70 廃材の電柱を利用して子豚育成舎を改築した。
3年 70 経済連(現全農えひめ)、JAと共に「内子風味豚」という銘柄豚として契約販売を開始した。
愛媛県総合畜産共進会にて、農林水産大臣賞の優秀賞を受賞した。
4年 70 パソコンと養豚診断システム「トントンアップ」を導入し、自らが経営診断を開始した。
7年 68 日本SPF豚協会より、SPF農場の認定を受けた。また、分娩舎を高床式分娩ストールに改造した。
8年 68 総合資金の借入償還が終了した。
12年 72 子豚舎を高床式育成ゲージに改造した。
13年 74 愛媛新聞社主催第10回愛媛農林水産賞の優秀賞を「程内養豚団地」(4戸)が受賞した。
14年 70 地元自治会の事務局長に就任
JA愛媛養豚経営者協議会の優秀会員、優秀賞を受賞
15年 67 JA愛媛養豚経営者協議会の優秀会員、優秀賞を受賞
16年 65 JA愛媛養豚経営者協議会の優秀会員、特別表彰を受賞
18年 65 地元自治会の会長に就任
4.経営・生産活動の内容

@    安定した技術成績の継続

平成17年の主な技術成績をみると、正常産子数11.8頭/腹、離乳頭数11.0頭/腹、年間分娩回転数2.31、育成率95.1%、母1頭当り出荷頭数24.2頭、上物率62.8%、平均枝肉重量70.8s、DG548.7g、農場要求率3.17、母豚1頭当り年間枝肉重量1,715.5sとなっている。過去5年間を平均しても、正常産子数11.1頭/腹、離乳頭数10.4頭/腹、年間分娩回転数2.30、育成率93.4%、母豚1頭当り出荷頭数22.6頭、上物率64.3%、平均枝肉重量71.2s、DG546.0g、農場要求率3.17、母豚当り年間枝肉重量1,610.5sと高位の技術成績を収めており、県内の養豚農家の中でもトップクラスの成績である。20042005年については更に生産性が向上しており、母豚頭数が若干減ったにもかかわらず、出荷頭数、肉豚売上を向上させている。

 

 

A    SPF豚飼育による有利販売

1981年(昭和56年)の養豚経営開始当初から、県下でもいち早くSPF豚を導入飼育し、1991年(平成3年)にはJA、愛媛県経済連(現全農えひめ)と共に「内子風味豚」の銘柄化を行ない量販店へ有利販売を開始した。また、肉豚段階の飼料には「地養素」を添加して差別化を図っており、現在では「新風味豚」という銘柄豚ブランドを確立し、通常の相場に上乗せした価格で関西方面の量販店へ出荷されている。出荷頭数は全体の90%以上となっている。年に1回はスーパーのフェアーに地域養豚団地として農家が店頭に立ってアピールを行なっており、冨永氏もその一端を担っている。

B    高度な飼養管理レベル

SPF豚飼育の附帯効果とも言えるが、SPF豚農場のため施設へ入る前に必ず入浴する必要があり、また部外者の農場内への立ち入りを禁止しているなど、豚舎での徹底した衛生飼養管理を実施しており、肥育事故率も2.0%台を維持している。これは、年間330日という養豚従事日数からも伺える。また、妊娠確認には常に妊娠鑑定器を使用して再発防止に努めたり、肥育段階の飼料管理については従来からのドライフィーディングによる制限給餌を実践しており、自動給餌機に頼らず配餌車による手やりを貫くこだわりもある。現在は環境対応型の飼料を給与しており、その効果として排せつされる尿の量が推定で2割程度減少している。

C 経営診断ソフトの活用により高所得を実現

県下でもいち早くパソコンによる経営診断ソフト「トントンアップ」を導入し、自らが入力することによって自らの経営を把握している。そして、各研修会には積極的に参加し、関係指導機関と共に養豚団地の農家全体の定例経営検討会を実施している。この検討会によりお互いが刺激し競争しながら経営の向上および健全化を図り、1996年(平成8年)には借入資金の償還も終了し、常に1母豚当り15万円を超える所得を確保している。また、インターネットにも取り組んでおり、畜産情報の収集に心掛け、養豚経営をサポートしている。

D「品質安定・安心美味」の豚肉を目指す地域のリーダー

平成1310月に、“県内の農林水産業の発展と振興に寄与し、模範となる団体・個人をたたえる”第10回愛媛農林水産賞において冨永氏が代表を務める「程内養豚団地」が優秀賞を受賞した。また、地元の「道の駅・からり」に豚肉を提供し、オリジナルソーセージやひれかつ御膳の食材として人気を集めている。

 

5.家畜排せつ物の処理・利用状況
(1)家畜排せつ物の処理方法
@ 固液分離処理の状況

   一部分離 

   繁殖豚舎と分娩豚舎については、糞尿分離方式で、育成豚舎はオガ吸着、肥育豚舎は蹴落としによる糞尿混合方式である。


 A固形分あるいは混合処理(堆肥化処理)

   固形分の処理方式については、堆積醗酵による堆肥化であり、施設としては、共同利用の斜面乾燥場と堆肥舎がある。各豚舎から出てきた固形物はボブキャットで地形を利用した斜面乾燥場へ運搬し、一次処理された堆肥はJA愛媛たいき内子堆肥センターに引取りにきてもらっている。現在は育成豚舎において「えひめAI−1菌」を散布しており、豚舎内の消臭効果はもちろん、堆肥の醗酵促進にも効果がある。
   堆肥センターで製造されている堆肥「エコパワー」は、エコロジータウンを目指している内子町の制度の一環を担っており、地域の循環型農業の推進に役立っている。
   


 B液体(尿・汚水)の処理

   繁殖豚舎と分娩豚舎から出てきた尿や豚房水洗等による汚水は、共同の尿溜槽に溜まり、曝気による浄化処理の後、自己所有地の果樹園に土地還元している。

(2)家畜排せつ物の利活用

 @固形分

内  容

割合(%)

品質等(堆肥化に要する期間等)

販  売

 

 

交  換

 

 

無償譲渡

5

 

自家利用

5

 

90

農場の斜面乾燥場からJA愛媛たいき内子堆肥センターが引取りしている。オガ混合。

 A液体分

内  容

割合(%)

浄化方法等

土地還元

20

共同の尿溜槽(40?)から、曝気による浄化処理の後、液肥利用。

放  流

 

 

 

 

他  

80

育成舎はオガ吸着し、肥育舎は蹴落とし方式なのでオガ混合で堆肥処理。

6.地域農業や地域社会との協調・融和のために取り組んでいる活動内容
(1)第10回愛媛農林水産賞の優秀賞を受賞した。
   このイベントは、県内の農林水産業の発展と振興に寄与し、模範となる団体・個人をたたえる目的で愛媛新聞社主催で平成13年10月24日に開催されており、優秀賞4団体、技術開発賞1個人が選ばれた。冨永氏が代表を務める「JA愛媛たいき程内養豚団地」という団体での受賞である。程内養豚団地とは、当初5名の経営者でスタートしたが、現在では冨永治氏、中村清貴氏、山口秀雄氏の3名で構成されている。受賞理由については、以下のとおりである。
1980年(昭和55年)、内子町の山間部を造成し養豚団地を設立した4名の農家が厳しい養豚事業環境の中、今日までお互いに競い合い、共に研究を進め生産技術を向上し優良経営者に成長した。4名(受賞当時)共に、県下でもいち早くSPF豚の飼育に取り組み、事故率を抑え、肉豚の増体重を高め、固定化負債0円と、生産性・肉質・経営内容ともに優秀であり、各種の共励会で表彰されるなど県下を代表する養豚農家である。特に、配合飼料に「地養素」という味質改善用天然物を成分とする添加物を加え、肉質の更なる向上と環境の臭気対策にも取り組み、系統販売の中「新風味豚」という銘柄豚ブランドを確立し、関西の量販店と契約し販売するなど有利販売も進めている。
 以上、まさに地域農業発展のために、各農家が協調性を持って取り組んだ結果と言える。

(2)地元の道の駅「内子フレッシュパーク・からり」へ食材を提供している。
「からり」は、国道56号と国道379号が交差し、小田川と中山川の合流する点に位置し、ここでは、地域で生産された特産物を展示販売する直売所、観光・文化・歴史・イベントなどの情報を提供する情報センター、ハーブ・フルーツ・畜産物など内子町で生産される新鮮素材を使ったレストランなど内子町のすべての魅力を集約した施設である。また、「からり」の語源は、果(フルーツ)を楽しむ"果楽里"、花を楽しむ
"花楽里"、香り(ハーブ)楽しむ"香楽里"、そしてカラリと晴れた気分、カラリとさわやかな人間関係などのイメージで名付けられている。愛媛県下の「道の駅」の中でも非常に集客数が多く、平成16年度には年間売上が6億円を超えている。
  「からり」の直売所では、本場ドイツのローテンブルグ市で3年間ハム・ソーセージ作りを学んできた程内養豚団地の一員である山口秀雄氏の息子さんが、ドイツの味をベースに内子らしさを追求した、「からり」オリジナルハムやソーセージを約10種類作っている。食材は、フレッシュハーブと原料の豚肉はすべて地元の内子産で、特に豚肉は富永さん達が生産したSPF豚が定期的に仕入れされており、ハム・ソーセージの原料となり、新鮮・安全・美味をアピールしている。また、レストランにおいてはロースかつ丼御膳やヒレカツ御膳も人気のメニューとなっている。
  自分たちの生産した豚肉が、地元のレストランで食材として加工され、料理されてお客さんの評価が身近なところで聞けることは、生産者にとって勉強になるし、励みにもなる。このように、地域社会とうまく融合することにより、お互いの相乗効果を高めている。

(3)内子町のエコロジータウンを目指す取組みの一端を担っている。
内子町は「環境に優しい栽培方法で生産した農産物」を認証する制度をつくっている。冨永さん達の養豚団地の家畜排せつ物を原料としてJA愛媛たいき内子堆肥センターで生産される「エコパワー」もこの制度の一環として耕種農家へ販売されており、資源循環型農業の推進にも協力している。堆肥センターは経営当初は、冨永氏たちの働きによるJAの運営であったが、現在は行政も巻き込んだ運営がされており、地域の生ゴミも収集して堆肥化を行なうなど、地域一体となった活動となっている。

(4)地域社会活性化のために水車小屋を復元した。
程内養豚団地のメンバーが中心となって「御調の森水車小屋」を整備し、観光スポ
ットとしてアピールしたり、「御調の森水車祭り」を開催して都市住民との交流を図ったり、水車による米の精米やそばの製粉を行って付加価値商品の開発も目指している。
 この御調の森水車が、平成12年に内子町より美しい景観建造物デザイン賞を受賞した。
7.今後の目指す方向性と課題
(1)養豚経営の規模頭数は、現状の施設規模、労働力からみても種雌豚70頭を基本とし、更なる技術成績のレベルアップを図るとともに、より一層の品質向上に努め、美味しく、安心して食べられる豚肉を安定して生産していくことが第一の目標である。それが、経営の安定につながる一番大切な事である。 
  
(2)将来的には、子供達に養豚経営を継いでほしいが、そのために安心して取り組める経営環境作りを進めていきたい。
内子町では、様々な果樹栽培が行なわれており、シーズンにもなると観光農園の看板が目を引く。このような地域の特色を活かして地元産100%の果物と、自家産の豚肉やハム・ソーセージ等の加工品を販売する「観光くだもの園」を作る夢を持っている。また、現在は肉豚の出荷のほとんどが県外出荷であり、「からり」への出荷は一部となっていることと、「からり」の豚肉製品が非常に人気があることから、地元への出荷量を増やし、地元の人においしい豚肉をもっと食べてもらいたいと考えている。ここにも地域振興に取り組む地域リーダーとしての姿を垣間見ることができる。
8.事例の特徴や活動を示す写真